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2017年9月17日

もう一年待ってください  

 

『それから、この譬を語られた、「ある人が自分のぶどう園にいちじくの木を植えて置いたので、実を捜しにきたが見つからなかった。そこで園丁に言った、『わたしは三年間も実を求めて、このいちじくの木のところにきたのだが、いまだに見あたらない。その木を切り倒してしまえ。なんのために、土地をむだにふさがせて置くのか』。すると園丁は答えて言った、「ご主人様、ことしもそのままにして置いてください。そのまわりを掘って肥料をやって見ますから。それで来年実がなりましたら結構です」。(ルカ福音書13章6節~9節)

 

 

 このところ、イエスが語られた譬え話を通して導かれていますが、これは福音を的確に、そして明確にするためでした、そこで、今日は「いちじくの木」の譬え話から、神は少しも実を結ばない(役にたたない)者でも、見捨てずに愛していてくださる、ということを学びたいと導かれています。

 

 話は、ぶどう園で主人はいちじくの木を植えて、実の成るのを期待しましたが、三年たっても実が成らないので、主人はしびれを切らして、「そんな役にたたないものは切り倒してしまえ」と命じたのです。ところが園丁は、「ことしも、そのままにして置いてください。そのまわりを掘って肥料をやってみますから」と執り成したというのです。

 

 この世の人は役に立つ者に対しては大切に扱いますが、役に立たない者に対してすごく冷淡です。それに対してこの庭園の心は「神の愛」です。神は実を結ばないような、役に立たない者に対しても心を注いでいてくださるのです。そして、わたしたちに対しても切り捨てなさらないで、「もう一年、待ってください」と執り成し、期待してくださるのです。

 

 次に、イエスはマタイ福音書13章24節以下で、毒麦の譬え話を語っておられます。

ある人が麦の種を蒔いたはずなのに、芽が出てくると毒麦がまざっていたので、それを抜き取ろうとすると、主人は、「いや、毒麦を集めようとして、(よい)麦も一緒に抜くかも知れない。収穫まで、両方とも育つままにしておけ」と命じたというのです。

 

 人間は性急に「これは良い麦だ」「これは悪い実だ」と黒白つけたがりますが、神は、そのままにしておけと言われるのです。それは、毒麦を抜くときに、間違って良い麦も一緒に抜くようになってはならないからです。また今は悪い麦のように見えても、良い麦になることがあるからです。とにかく、人間は変わることがあるのです。

 

 マタイ福音書12章20節には『いためられた葦を折ることなく、煙っている燈芯を消すこともない』とあります。これは神の弱い者に対する愛の心が表されているところです。「いためられた葦」とは、茎が折れてなにも役にたたない葦で、捨てられるしかないようなものです。でも神はそれを見捨てられないのです。また「煙っている燈芯」とは、油が悪いのか、とにかく煙るばかりで、ちっとも明るくならないようなものです。でも神は、「お前のようなものは駄目だ」と見捨てなさらないのです。

 

 この世は「優勝劣敗」の世界で、優れた者は歓迎されますが、そうでない者に対しては比較的に冷たい世界です。頭のいい者、健康な者、高学歴の者、容姿がいい者は歓迎されますが、こんな不公平なことはありません。しかし、神はすべての人を同じように見てくださるのです。「神には、かたより見ることがない」のです。(ローマ2章11)否むしろ、神の心は失敗ばかりしている人、駄目な人、弱い人を見捨てるようなことはありません。エリコの町でイエスが訪ねたのは取税人ザーカイでした。彼は町のだれからも嫌われて相手にされず、町いちばんの孤独な人だったのです。

 

 

 ある教会学校の教師会で「あの子はいい子だけど、この子は駄目だ」という発言があったとき、一人の教師が「いまから、いい子、悪い子とレッテルを貼ってはなりません。子どもはどんなに成長するかわかりません」。と発言しました。確かに、子どもだけでなく、人間はみんな成長すると同時に変わります。それを期待するのが教師です。

 

わたしが神学生のとき、ある教会で教会学校の教師をして、五年生のクラスを担当していました。そのクラスに少しも落ち着かない生徒がいました。こんなことがありました。ある日、礼拝の最中に忽然とその子どもの姿が消えたのです。ところがしばらくして、ベンチのいちばん後ろのほうから頭を出したのです。つまり、ベンチの下を潜っていちばん後ろまで匍匐前進をしたのです。

 

 それから三十年ほど後に出会いましたが、なんとその教会の役員となって、教会のために熱心に奉仕している姿を見たのです。その豹変ぶりに驚きました。「あんな落ちつかない子ども」と思っていた自分を反省させられました。(2017.9.17