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2024年6月9日聖日礼拝説教要

       心の貧しい人たちは

 「イエスはこの群衆を見て、山に上り座につかれると、弟子たちはみなみもとに近づいてきた。『心の貧しい人たちはさいわいである。天国は彼らのものである』」
(マタイ福音書5章3節)


 イエスは5章から7章まで山の上で群衆を相手にメッセージをされました。これを「山上の垂訓」といいます。そして、その開囗いちばんに「こころの貧しい人たちはさいわいである」と語られましたが、これは「謙遜な人」「へりくだった人」のことです。つまり天国は狭き門ですから謙遜な人、へりくだった人でなければ入ることはできません。

 アウグスチヌスは「人間にとっていちばんの美徳は謙遜です。第二も謙遜です」と言われたそうです。聖書の中にも謙遜、へりくだりという言葉がたくさんでてきます。たとえば、ヤコブ書4章6節には「神は高ぶる者をしりぞけ、へりくだる者に恵みを賜う」とあります。つまり、神はこのようなへりくだった者、謙遜な者を愛してくださるということです。ところが人間はやたらに高ぶり高慢になります。それは神を畏れる心がないからです。

 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」とありますが、よく実が実っている稲穂は頭が低く垂れていますが、あまり実が結んでいない稲穂は頭が高く突ったっています。つまり、良くできた人ほど頭が低く謙遜なのです。他方、そうでない人は、ちょっとしたことでも自慢したり、高ぶります。

 よくあることですが、自分のことを高ぶるだけでなく、自分の家族のこと、親戚のことを自慢し、それもなくなると「息子の友人にこんな人がいる」と自慢をしている人がいました。そして、とどのつまりは、自分の郷里にはこんな人が出たと、自分とあんまり関係のない人まで引き合いに出して自慢した人がいました。そんなにまでして自慢をしたいものですかね。それよりも謙遜な人のほうが人間的に信頼できますし、人々の人望をえる。

以前の教会に遣わされたとき、その就任式に市長さんから祝電をいただきましたので、それが披露されました。大勢の牧師たちが出席しておられましたが、自分たちの就任式に市長から祝電など貰ったことがなかったので、みんな一様に驚いておりました。

 それは教会員に市の助役(収入役)をしている人がおられたからです。この人は地方銀行の本店長をしていましたが、市長に請われて助役になって市長を助けていたのです。そこである日、市庁舎に表敬訪問をしました。その人は助役室で仕事をしていましたが、その姿は教会で接するのとは全く違うのです。教会では温厚な人、謙遜な人と思っていましたが、職場で接するその人は威厳をもっててきぱきと仕事をこなし、持ってくる職員の書類に目をとおして印鑑を押し、次々と適切に指図をしているのです。

 やがて仕事も一段落したとみえ、「先生、お待たせしました。こちらへお越しください」と市庁舎の奥のほうに案内されました。その部屋には「市長室」と表札がかかっていました。そして市長室で「市長、このお方は、このたびわたしたちの教会にお越しくださった牧師先生です」と丁重に紹介してくださったのです。すると市長が手を差し出して握手をしてくださり、「N市のためによろしくお願いします」と挨拶をしてくださいました。わたしも祝電を頂いたお礼を申しましたが、このように市長と親しく挨拶を交わした牧師ははじめてのことのようでした。

 しかしそれよりもわたしは、そのときに助役さんが言った言葉「このお方が、このたびわたしたちの教会にお越しくださった牧師先生です」と、その当時はまだ26歳の青年牧師で、自分の息子ほどの若者に対して紹介された丁寧な言葉に、「この人はほんとうに謙遜な人だなあ」と教えられました。このようにほんとうに出来た人は謙遜な人です。

 次に、イエス・キリストも謙遜な人でした。ピリピ書2章6節に『キリストは神のかたちであられたが、神と等しくあることを固守すべき事とは思わず、かえって、おのれをむなしくして僕のかたちをとり、人間の姿をとられた。その有様は人と異ならず、おのれを低くして死にいたるまで、しかも十字架の死に至まで従順であられた』とあります。これはイエスの謙遜の姿です。キリストは「神のかたちであられた」とあるように天において「子なる神」であられたのです。その方が人類の罪の贖いを完成するためにあえて人間の姿(罪人の姿)になり、僕となって仕えてくださったのです。

 コロサイ書3章12節に『あなたがたは神に選ばれた者、聖なる愛されている者だから、あわれみの心、慈愛、謙遜、柔和、寛容を身につけなさい』とあります。この「あわれみの心」「慈愛」「謙遜」「柔和」「寛容」はガラテヤ書5章22節にある「御霊の実」というところにあります。つまり御霊に満たされるときにこのような徳が備えられるのです。
                                                   坊向輝國