本文へスキップ
2011.12.11
                                                      戻る


  


兄弟が和合しているのは

 

『見よ、兄弟が和合して共におるのはいかに麗しく楽しいこと
であろう』                (詩篇133篇1節)

 

 ここに「和合」とありますが、これは仲良くすることです。
夫婦が、また家族が、つまり同じ屋根の下に住んでいる者たち
が仲良くしているならば、こんなしあわせなことはありません。
そして子供たちにとってもしあわせなのです。そんな家が繁栄
するのです。


 ところが、夫婦が、また家族がいがみあっているなら、子ど
ものために良いわけはありません。そのような環境に育った子
供は必ず悪い影響を受けるのです。

 

 わたしがまだ若いころ、ある少年事件で神戸の平野にある
「少年鑑別所」を尋ねたことがあります。その少年はまだ幼気
な中学生で、こんな少年がどうしてあのような大きな事件を起
こしたのか理解できませんでした。その少年が起こした犯罪は
放火と窃盗でした。

 どうしてこんな事件を起こしたのか、いろいろと話している
うちに分かったのは、その家庭の複雑な環境でした。その家庭
は両親と二人の兄弟の四人暮らしで、経済的には山林もたくさ
んの田畑もある比較的に裕福な家庭でした。ところが、その夫
婦関係は逆転し妻のほうが強く、夫を尻の下に敷いて支配する
ような状態で、なにか言われても反論もできず黙ってしまうよ
うな夫でした。

 

 また子供も兄は頭がよくて国立大学に行っているのに、弟は
勉強ができなくて、いつも母親から兄を引き合いに出して怒ら
れるような有様でした。ですから父親が文句を言われているの
をみると、いつも自分が言われているように心を痛めていまし
た。

 ところがある晩、いつものように父親がどなり散らされてい
るのを隣の部屋で聞いていた弟は我慢ができずに家を飛び出し
たのです。といっても田舎のことでどこへ行くこともできず、
ぶらついていると、最近できたばかりのこの村でただ一軒のス
ーパーがありましたので近づいてみると入口に鍵がかかってい
ませんでした。そこで中に入ってみると、昼間と違いなにか神
秘的なものを感じたそうです。

 

 そして入口の近くにレジがありましたのでレバーを押すと、
チンと音がして中から明日の釣銭がでてきましたので、それを
ポケットに入れ、遊び半分に「今度はもっとたくさんお金を置
いておけ。そうでないと火をつけるぞ。ルパン」とメモに書い
て置いたのです。しかしそれが静かな村の大事件となりました。

 

 それから一カ月ほどしたある晩、また夫婦喧嘩がはじまりま
した。そこで少年は家を出て迷いもなくスーパーに直行しまし
た。しかしスーパーのドアは警察の指導により鍵がかけられて
いましたので、家の納屋からバールを持ってきて鍵を壊して店
に侵入し、レジまで直行しましたが、中にはお金はありません
でした。そこでそばにあった百円ライターでカーテンに火をつ
けたのです。放火をするつもりではなく脅かしのつもりでした
が、火の勢いが強く大火事になってしまいました。そして近隣
の村々から消防車が応援に駆けつけ大騒ぎになりました。

 

 その近所をうろついていた少年が不審尋問で捕まり警察に確
保され事件の全貌が分かったのです。わたしはなんとかしてそ
の少年を助けたいと思いましたが、まだ若いときのことで何も
できませんでした。結局は家庭裁判所に送られ、少年院におく
られることになったのです。そして全焼したスーパーは保険で
再建できましたが、その少年の家が資産家だということで民事
訴訟をおこされ、親は山を一つ売って弁償したということです。

 

 どんな豪邸に住んで何ひとつ不自由のない生活、贅沢な生活
をしていても、家の中で言い争いがあるならこんな不幸なこと
はありません。箴言1517節に『野菜を食べて互いに愛する
のは、肥えた牛を食べて互いに憎むのにまさる』とあります。
つまり、どんな贅沢な暮らしでも愛がなければこんな不幸はあ
りません。それよりも、どんなに貧しくてもその家庭に愛があ
ればそれほどしあわせなことはないのです。

 

 昔は「貧困(貧しさ)が犯罪の温床である」と言われました
が、今は「夫婦の不仲が子供を非行に走らせる」と言われてい
ます。ですから、夫婦はできるかぎり仲良く円満であることが
大切です。どんなに家庭が貧しくとも、夫婦が仲良くしている
ならば、子どもの心に安心を与えるのです。またそんな家庭の
子供は非行に走るようなことはありません。

 

 ある母親がこんな話をしていました。「ある日、激しく夫婦
喧嘩をした後で、子どもにお乳を飲ませようとしたが、どうし
ても飲もうとしなかった」と。夫婦喧嘩は幼児の心に敏感に響
いていたのです。あるいは母親が興奮して母乳の出がストップ
したのかもしれません。

 

 アメリカのある雑誌にこんな話を掲載していました。それは
ひとりの少女が売春婦に転落する顛末でした。その少女の家庭
も両親の仲が良くなく喧嘩が絶えなかったそうです。そこで狭
いアパートのなかで少女はいたたまれず、喧嘩がはじまると外
に出て終わるのを待っていたそうです。ところがある晩、通り
かかった男性に声を掛けられ、それがきっかけで売春に走るよ
うになったという話です。その原因は言うまでもなく両親の不
仲だったのです。             (Dec,11,2011